我が国では更に少子高齢化が進み税金・年金・保険料を納める人が減り医療・介護を要する人が増える。国民は社会保障費の捻出に際し、自己負担の増額か、増税かどちらかを選択しなければならない岐路にある。欧州諸国のように国民全体で負担するなら消費税の引き上げしかない。また、自分の健康管理は自己責任でという米国式であれば自己負担の増額か、混合診療の導入である。
97年度の日本人の一人当たりの国内総生産GDPがOECD (経済協力開発機構) 諸国の中で第2位にであるのに対し、総医療費の対GDP比は7.2%で20位であり米国の13.9%の約半分、高齢化率と一人あたりのGDPが比較的近いドイツ、フランスではそれぞれ10.7%、9.6%で、日本の総医療費は少なく見積もっても対GDP比で約2%、約10兆円も少ないと考えられる。いわゆる国民医療費とは総医療費から保険・予防費用や病院建設費等を差し引いたもので97年度の国民医療費は29兆円で、厚生省はその抑制に懸命だが、現場では欧米なみの医療サービスはおろか、診療報酬の安さから当直医、夜勤の看護婦や検査技師の確保という最低限の医療サービスにも窮している状態である。もちろん、29兆円というパイの切り方に改善の余地はあるが、日本の医療費は国際水準からみると決して多くはない。
さて、医者をやっていると、日常診療で生活保護を受けている患者を扱う事も多いが、彼等の医療費(生活費や遊興費も)は公費で賄われ自己負担はゼロである。ある患者は酒を飲んでは気分が悪くなったといって救急車を呼んで頻繁に病院に搬送されて来る。ある患者はもう受診の必要がないといってもタダで病院にかかると得をした気分になるのか毎日通院しており、蚊に咬まれたといっては病院に軟膏をもらいに来る。そしてこれからパチンコに行くという。ある二十代の男性患者は腰が痛いといって定職に就かず両親は健在で収入があるにもかかわらずアパートを借りて両親と別居し生活保護を受けていた。精査の結果、彼の腰には異常所見は無く、親と本人を説得し生活保護を止めさせた。医療現場にいると悲しいかな「規則は必ず悪用される。」、更には「過度の福祉は国を滅ぼす。」ということを実感せざるを得ない。
支払う医療費の大小により受ける医療に差があるのが米国型自己責任の「公平」ということであり、支払う医療費の大小にかかわらず、受ける医療に差がないというのが欧州型社会保障の「平等」であると考えるならば日本人の国民性からして両者の折衷案をとらざるを得ないだろう。
そこで、消費税から考えてみたい。スウェーデン25%、フランス20.6%、イギリス17.5%、ドイツ16%(98年)など、欧州諸国の多くで、消費税が15%以上であることからわかるように、間接税(消費税)はみんなで公平に負担すると言う意味では極めて優れた税制である。消費税という形を採れば前述の彼等にも一端を負担して頂ける。消費税が5%以下の先進国は日本(5%)だけで自己責任型である北米諸国でも、カナダで7%、米国でも州、郡、市によって小売売上税が課されておりニューヨーク市では8.25%である。また、96年の国民負担率(租税+社会保障の負担率)は日本36.4%、アメリカ36.5%、イギリス49.2%、ドイツ56.4%、フランス64.1%、スウェーデン73.2%であり、日本は皆保険制度のない米国とほぼ同じである。
次に、混合診療であるが、歯科では既に認められている。混合診療の導入に反対しているのは、日本医師会である。建て前は受診抑制を招き患者が重症化してから病院を受診するため医療費増大につながるといっているが、本音は患者が減るから収入が減るということである。厚生省は国庫負担が減るので基本的には導入に賛成のはずである。医療現場では混合診療を禁じているため治療効果があり患者が自費負担を了承しても中断しなければならない治療もあり、矛盾を感じる。
現在の我が国の消費税と国民負担率は自己責任型である。この国民負担で欧州型の福祉政策は不可能であり、良質の医療を提供するという医学的見地からも混合診療は導入すべきで、認めないのは患者にも不利益である。同時に、税の直間比率も諸外国並に是正すべきだ。景気対策として、平成11年の税制改革で所得税・住民税の最高税率は主要先進国並まで引き下げられたが、課税最低限は米国や英国に比べてかなり高く平成10年は勤労者層の約3分の1、およそ1800万人が所得税を払っていないという。国と地方で合わせて600兆円といわれる借金を益々増やし将来世代にこれを負担させることは避けたい。今後、国民負担率が50%を越えないためには、先進国の国際水準からして社会保障費の財源として衣食住に関する物の消費税10%、その他の物で15%程度はやむをえないだろう。
[混合診療を認めるべきか]
ばんぶー 1999年11月号