「小児科が当直医を確保できない」という内容の医師会報が回ってきたが、こうなることは十分予想されていた。小児科の当直は@殆ど寝られない。A診療報酬が安い。Bすぐ親から苦情がくる。と誰もやりたがらない条件がそろっている。小児科に限らず、どこの病院でも当直医の確保に苦労している。一般の方々には理解し難いことだが、医師には当直明けがない。即ち徹夜当直の翌日も通常勤務である。

 最近の医学部卒業生は、眼科、耳鼻科、皮膚科等、当直や緊急時呼び出しが無い科を選択する傾向にあり、外科、脳外科、救命救急科、小児科などハードな勤務が要求される科は敬遠される傾向にある。小生が研修医として都内の某救命救急センターでトレーニングしていた約15年前は週5回当直していた。元来、レジデント(研修医)とは病院の住み込み医師と言う意味であるが、最近の研修医には多くの症例を経験すべきトレーニング中だと言う認識が薄く、週2回の当直でも不満が出る。医学部卒業生に女子が増えていることも事態を深刻化させている。男女の雇用機会均等がいわれているが、ハードな科の医師当直業を男性と同じ条件で女医さん課すのは現実的には困難である。

 使命感とか責任感という言葉はもはや過去の遺物になりつつあり、医療従事者のみならず、最近の日本人全体に"楽で給料の良い職種"ばかりを求める傾向が見られる。ちまたでは失業率が高いといわれているが、"楽で給料の高い、おいしい仕事"がないだけで、医師の当直や看護婦の夜勤など3K職種は圧倒的に人手不足である。これはバブル時代に日本人全体が甘やかされてしまったツケが回って来たと考えられないだろうか。それだけ日本人が豊かになったといえばそれまでであるが、このままでは、小児科のみならず日本の救急医療は近い将来必ず破綻する。

 そこで自治医大・防衛医大の有効活用を提唱したい。日勤帯はむしろ医師は余っているが、休日・夜間の救急医療については多くの地域で医療過疎である。自治医大の卒業生には義務年期間中に過疎地ばかりでなく都市の基幹病院の小児科や救命センターで勤務し、また、ドクターカーに同乗することを義務付ける。防衛医大の卒業生にも有事の際の多発外傷や広範囲熱傷に対処すべく義務年期間中の一定期間を基幹病院の外科、脳外科、救命センターで勤務する事を義務付ける。自治医大・防衛医大には膨大な税金をつぎ込んで医師を養成している訳だから、地域の救急医療過疎に人材をもっと積極的に有効活用すべきである。


【自治・防衛医大OBは義務年に救急医療も】 
   産経新聞1999年7月21日「アピール」