連日医療ミスが紙上を賑わせているが、下記の3点は医療に限らず、我国の公的機関の崩壊状態に共通する問題点だろう。
1)悪平等給与体系
現行の保険医療では成功した手術も失敗した手術も診療報酬は同じである。また、公的大病院では救急患者を沢山受け入れても、満床だと言って全部断っても医師や看護婦の当直料は同じである。これでは質もサービスも改善される訳がない。むしろ診療行為をする事が医療過誤の原因を増やすという考え方になって来る。
2)外部評価が反映されにくい閉鎖性
医療の世界は極めて閉鎖された社会で、内部と外部の評価基準は大きく異なっている。例えば、大学病院では「あの先生は臨床ができる」という言葉は褒め言葉ではない。即ち、骨折とか虫垂炎の緊急手術をいくら沢山やっても、いくら上手くても教授にはなれない。やはり移植や遺伝子治療など学会での花形的分野に携わらなければならないのである。更に、現場の実績とは無関係に昇級人事が出身大学で決まってしまう事も多い。
3)ゆとりの教育の弊害
医療ミスには2通りある。1つは誤診や手術時に誤って神経を損傷するなど人間がやる限りゼロにできないミスで、診療時のインフォームドコンセントが重要となろう。もう1つは消毒薬の静脈注射、手術患者の取り違え等の完全なケアレスミスで、これらはゆとりの教育がもたらした注意力散漫もその一因だと思われる。
医療においてはケアレスミスが少ない事が重要な事は言うまでもなく、「できる事」は常に百点が要求される。また、できない事を「ない」といえる事も重要で、それは試験で、実力以上の問題はできる必要がないが、できる問題は完璧を期すという事と何処が違うのだろうか?学生時代にケアレスミスを容認するような教育を受けてきた者に社会人となって「さあ、今日からケアレスミスをするな」と言う事に無理がある。殆どの医療ケアレスミスは施行する前にもう一度確認すれば防げるものであり、それは答案を提出する前にもう一度確認する作業と差はない。
以上3つの問題点を踏まえた上で、医療ミスの抜本対策は競争原理を導入する事である。公的大病院では給与体系を年功序列・終身雇用から能力・成果主義に是正するだけで効率化とサービス改善が可能である。また、混合診療の導入や、手術の成否で診療報酬を変える事も有効だろう。競争は悪い事だろうか。医療に限らず、警察、教師など昨今の公務員の仕事ぶりを見れば明らかな様に、全く競争原理のない所ではその「質」は留まる所なく低下している。
5)【頻発する医療ミスの原因と対策】
産経新聞 2000年7月4日「アピール」