参議院の選挙制度をめぐって国会が空転しているが、前回の衆院選比例区で惨敗したため制度改革をゴリ押しする与党にも、すぐ審議拒否という手段に出る野党にも賛同しかねる。審議拒否というのは会社で言えば、会議で自分の意に反する意見が通りそうなので出社しないのと同じであり、審議拒否するのであれば当然その分の給与(=税金)を返還すべきである。国会議員は国会で審議するのが仕事であるはずだ。そもそも、選ばれる国会議員が選挙制度を論ずるとどうしても党利党略が働くので、憲法学者や有識者で選挙制度改革を行う第3者機関を設置し国会議員はその決定に従うしかないだろう。
参議院は選挙制度の前にその存在意義を論ずる必要がある。多くの国民は衆議院のコピーにすぎない現在の参議院に必要性を感じていない。2院制が意味を持つためには、両院の議員の選出法を変えるべきだ。例えば、衆議院は比例区を撤廃し、全て小選挙区制にし、参議院は定数を削減し、拘束名簿式比例代表のみとする。即ち、衆議院は個人を、参議院は政党を選ぶのはどうか。
小選挙区制は政権交代が起こり易い、選挙区が小さいので選挙に金がかからない、候補者各自の政策能力を判断できるというメリットがある反面、死票が増える。それを補う意味で参議院は政党のみを投票し、当選順位は党で決めて良い。与党の主張する非拘束名簿式比例代表では、以前の参議院全国区と同様、選挙区が膨大なので金がかかりすぎる。国民が日本全国に渡る多数の候補者一人一人の政策能力を判断するのは不可能であり、どうしてもタレントなど知名度の高い候補者が有利となる。また、圧勝した当選者から他の候補者への票の横流しは憲法上の問題もあろう。一方、拘束名簿式比例代表では、政党で選ぶので、国民も各政党の政策を評価できるし、政党も知名度は低いが政策能力に長けた専門家を国会に送る事ができる。そして、選挙に金がかからない。比例代表の順位が金で買えるかどうかは政党内の問題で、そういう政党に投票するかどうかは有権者の問題である。
その国の政治家のレベルはその国の国民のレベルであり、その国の国民のレベルはその国のマスメディアのレベルである。日本の民主主義は政策能力の有無に関係無く、知名度のあるタレントや、前首相の娘というだけで圧勝できるレベルなのである。無能な政治家を国会に送り出しているのは選挙に行かない無責任な国民に他ならない。
【参議院の存在意義と審議拒否】
産経新聞 2000年10月17日「談話室」