【麻疹の流行に想う】
 日本で麻疹が流行する要因は麻疹ワクチンの接種率が低いことが最大の原因だが、それにはマスメディアの責任も大であると思う。

 麻疹の自然感染では1000例のうち1例は死亡し、合併症としての麻疹肺炎は1〜6%(成人では10〜30%)、麻疹脳炎は0.1〜0.2%(成人では2.5%)に発症し、周知の様に成人になって麻疹にかかると重篤となる傾向がある。

 麻疹はワクチンの副反応の危険性よりも自然感染の危険性のほうがずっと高く78年に予防接種法の定期予防接種の対象となり、1988年に麻疹(M)、おたふく風邪(M)、風疹(R)の三種混合MMRワクチンが導入された。ところがこのMMRのうちおたふく風邪のワクチン成分が予想以上の症例で無菌性髄膜炎という重篤な副反応を引き起こしたためMMRワクチンは93年に使用中止となり、各ワクチンを別々に接種するようになった。

 その当時の厚生省は薬害エイズ問題等でマスメディアから薬の副作用について厳しく責任を追求されており、94年に予防接種法が改正され、それまでの「集団義務接種」が廃止され、「個別任意接種」となった。これを境に麻疹ワクチンの接種率が低下し、日本各地で麻疹が猛威を振るうようになってしまったのである。

 医学雑誌Vaccineによると麻疹の脳炎・脳症の発生率は、自然感染では10万例中50〜400例、これに対して麻疹ワクチンの副反応で脳炎・脳症を発症するケースは100万例中1例で、他の原因で脳炎・脳症にかかる率とほぼ同等であり、麻疹ワクチンが脳炎・脳症の原因になるとは言えない。むしろ麻疹ワクチンは安全生が高く1回接種した人の約95%が抗体を得ることができる極めて有効なワクチンと言える。 

 そもそもワクチンも薬もある意味では「毒を以って毒を制する」ものであり、安全性を追求する努力は必要だが100%安全な薬やワクチンは存在しない。逆に麻疹に限らず100万例中1例の脳炎・脳症という副反応のためにワクチン接種を中止すると残りの99万9999人が脳炎・脳症を発症する危険に晒されるのである。

 医師の立場から言えば100万分の1程度の副反応であれば日本人全員1億2千万人にワクチンを接種しても副反応発症者は120人に過ぎず、仮に副反応発症例を国が1人1億円で救済したとしても120億円で済む。麻疹を撲滅したいのであれば麻疹ワクチンの接種を現在の「個別任意接種」から以前の「集団義務接種」に戻すしかない。そしてその際、万一ワクチン接種による副作用と思われる症例が発生してもマスメディアは厚生労働省の責任を追及するのではなく「ワクチン接種が最大多数の最大幸福に繋がる」という事と「100%安全な薬やワクチンは存在しない」という事を国民に啓蒙する必要があろう。


追記:先般、マスメディアが大騒ぎしたタミフルについても私が調べた範囲では01年2月の国内発売以来07年3月20日までに延べ約3500万人が服用しているが、副作用報告は1079人、1465件でそのうち異常行動は128人(10歳代57人・10歳未満43人)、死亡例は55人(突然死9人)、更に異常行動に伴う転落死・飛び降り死はわずか8人(10歳代5人、40代・50代・90代各1人)であった。圧倒的多数の患者さんは副作用無くタミフルの恩恵を受けているのである。


2007年5月21日