6月2日、上田県知事と清水さいたま市長が共同記者会見し、さいたま新都心第8-1A街区の整備についてさいたま赤十字病院(さいたま市中央区)と県立小児医療センター(さいたま市岩槻区と蓮田市に跨る)を移転・集約する計画を発表しました。同街区の整備はこれまで賑わい創出を目指し、第2東京タワー(現スカイツリー)の誘致を試みましたが失敗に終わり、次の高層複合ビル建設も景気の後退からテナントが埋まらず三菱地所グループの撤退で頓挫していています。
雑誌「情報さいたま」より取材を受けその6月15日号に掲載されたこのプランに対する日下部の意見を掲載致します。
サッカー博物館や子供広場より価値ある計画
これまで新都心第8-1A街区は「賑わい創出の場」という都市計画の下で整備事業が検討されて来ました。政令市を抱える都道府県には通常、神奈川県のパシフィコ横浜や千葉県の幕張メッセの様な国際会議場・国際展示場・ ホテルの国際コンベンション複合施設が具備されています。
国際級の会議施設も無く、大規模の学会すらホテル不足で開催できず、埼玉医科大学主管の学会を東京で催している埼玉県の現状を鑑みれば、新幹線が停車する大宮駅に隣接し首都高速道路からも直通の新都心はその最適地で同街区に国際コンベンション複合ビルを誘致する事を主張して来ました。今回、残念ながらオフィス需要の低迷から三菱地所の撤退となりましたが、市庁舎がテナントとして入れば三菱地所も降りなかったのではないでしょうか?
新都心のオフィス賃料を月額約15,000円/坪とすれば、現在のさいたま市役所と議会棟にときわ会館を加えた総延床面積33,889uの年間賃料は約18億円となり、約40年間で事業費に相当する約720億円が回収できます。また市はビルの固定資産税と都市計画税で約8億円、更に1000億円と見積られる経済効果の1%=10億円の税収増が見込めるので三菱地所が建てるビルに市庁舎がテナントとして入れば市や県の財政負担なく国際コンベンション複合ビルが誘致可能だったのですが・・・。
三菱地所の撤退で同街区は「賑わい創出の場」からの方向転換を余儀なくされましたが、相川前市長の「サッカー博物館」や清水現市長の「子供多世代ふれあい広場」より両病院の移転の方が価値ある計画だと思います。
両病院の隣接は非効率的
現在のさいたま日赤の敷地面積は23,833.46uで第8-1A街区の24,022.08uとほぼ同面積です。県立小児医療センターの病院本体の敷地面積は61,432uで2つの敷地を足すと82,265.46uとなります。さいたま日赤の延床面積42,206.74uと小児医療センターの病院本体延床面積25,935uを足すと68,141.74uとなります。従って2病院を同一敷地内に隣接して建てるのはかなり無理があり、合体させて高層化させた方が良いと思います。
病院経営の面からも1つの病院にした方が効率的です。医師や看護師の数はベッド数で規定されますが、事務系職員の数や管理職の数は大幅に削減できます。事務長、院長、看護部長は2病院だと各1名ずつ必要ですが、1病院にすれば各1名で済みます。MRIやCTなどの医療機器,或いはICUや手術室の医療設備のイニシャルコストもランニングコストも1病院にした方が効率的です。
埼玉県は県立小児医療センターに毎年25億円以上を一般会計から繰り入れしていますが、日赤の小児科・周産期部門を増強する形で日赤を増床し、日赤の小児科・周産期部門に年間10億円程度の運営補助金を出した方が県の財政にとっても有利でしょう。上田県知事も当初は「2病院の隣接」と言っていましたが、「一体的整備」という言葉に変わり、6月6日に大宮ソニックで開催された『日本再生・埼玉イニシアティブ発表会』では「合体」という言葉を使っていましたね。極論すれば日赤の隣に小児医療センターがあれば日赤の小児科は不要となる訳ですから。
今後の課題
病院経営と患者の利便性の観点からは2病院を隣接させるよりもさいたま日赤の小児科・周産期部門を増強する形で県立小児医療センターを合体させて1病院にした方が良いのは前述の通りです。ただ、この両病院の一体的整備を誰がやるかが問題で上田県知事の事ですから「この計画を推進するためのプロジェクトチームを立ち上げてそのトップは外部招聘する」という手法を取るかもしれませんね。
次に県立小児医療センターが岩槻区から新都心に移転した場合に県北東部の小児医療にどういう影響が出るかの検証が必要です。この影響を最小限に留めるためにも病院へのアクセス確保が重要となります。幸い新都心の直下を高速道路が走っていますので救急車等が地下から病院に入れる様にすべきです。さもなければ周辺道路の慢性渋滞が危惧されます。
加えて県知事と市長は「さいたま市庁舎は新都心周辺」と明記された旧3市の合併協定を担保しなければなりません。移転後の日赤の跡地はもとより、平成24年内に土壌汚染浄化対策工事が終了する三菱マテリアルの跡地も市庁舎移転先の候補地となり得ます。そして民間業者が建てる国際コンベンション複合ビルに市庁舎がテナントとして入れば市の財政負担なく市庁舎移転が可能な事は前述の通りです。
いずれにしても埼玉県知事が立会人となり、旧3市の市長が署名捺印している合併協定書の様な公文書が公然と反故にされる前例を作る事は今後の埼玉県下の市町村合併に大きな禍根を残す事は間違いありません。
さいたま市は蚊帳の外?
6月2日の上田県知事と清水さいたま市長の共同記者会見からは県や市の執行部はもとより、県議会や市議会の合意を既に得た様な印象を持たれるかもしれませんが、県議会や市議会の審議はこれからです。この両病院の移転計画は7月末の県知事選を睨んだ上田県知事のアドバルーン的な意味合いもあると思われますが、新たに建設される日赤病院10階建て以上で延べ床面積は3割増しの55,000uという新聞報道もあり、既にかなり詳細な青写真が出来ている様に思われます。
ところが、5月20日の新聞報道の時点では、さいたま市には全く知らされていなかった様です。さいたま市も8%ですが第8-1A街区の地権者ですから新聞発表の前に打診があっても良さそうなものですが、上田県知事と清水市長の関係が良く分って興味深いですね。